へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

覚せい剤の自己使用事案における故意の認定

覚せい剤の自己使用罪で,頻繁に聞く弁解の内容としては,「自分が知らないうちに覚せい剤が体内に入った」というものである。

 

覚せい剤は,隠れて使うものなので,尿中から覚せい剤成分が出たこと以外に,いつ,どのようにして被告人が覚せい剤を使用したのかを認定することは,ほとんどのケースで不可能である。

 

それでは,裁判所はどうしているかというと,次のような「経験則」を使うわけです。すなわち,「覚せい剤は厳しく取り締まられている禁制品であり,通常の社会生活において偶然に体内に摂取されることはありえず,被告人の尿中から覚せい剤の成分が検出された場合,特段の事情がない限り,故意に覚せい剤を摂取したと推認することができる」。

 

今この記事を読んでいる方であれば,いつ,いかなる時に尿検査をしたとしても,尿中から覚せい剤成分が出ることは,まずない。普段触れることは,普通ないからだ。いわんや,それを体内に取り込むことなど,ますますない。覚せい剤は,「あえて使わないと,体内には普通取り込まれない物質」だということである。

 

もっとも,これも結局は事実上の推認に過ぎないのだから,その経験則によりかかりすぎず,具体的な事情を踏まえて,被告人が覚せい剤を自己の意思で使用したかをしっかりと検証しなければならない。

 

こうした事例で,被告人が覚せい剤使用者の周辺にいたりすると判断が難しい。被告人が覚せい剤に親和性を有することは,上記の事実上の推認をより一層強める方向に働く事情として考慮することができる一方,「特段の事情」をうかがわせる事情にもなりえるのである。「ふつうは体内に入らないけど,自分は覚せい剤関係者に恨まれているんだ。私は陥れられたんだ。」という感じの弁解が可能になってしまう。

 

裁判所って大変だ。この点,ホームレスの尿中から覚せい剤成分が検出されたが,具体的な事情を検討して,第三者が覚せい剤を混入させた疑いが残るとして被告人を無罪にした東京高裁平成28年12月9日判決は,原審との対比を含め,非常に参考になる。