へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

被相続人に家をタダで貸した場合,寄与分が認められるのか

1 はじめに

遺産分割の事件では,寄与分が主張されることとがままある。一般に,寄与分には,①家業従事型,②金銭等出資型,③扶養型,④療養看護型,⑤財産管理型があるとされる。

 

この記事では,そのうち,「兄が,身寄りのない弟(借家住まい)のために特別に土地建物を1000万円で購入し(賃料相当額は月額5万円とする),そこに弟を無償で10年間住まわせてあげた場合に,弟の遺産分割(遺産は預貯金が700万円のみ)に当たって兄に寄与分が認められるのか,認められるとしてその額はいくらか。なお,相続人は,兄弟姉妹合計4人であった。」という非常にニッチな事例を検討したい。

 

兄としては,「弟は賃料相当分600万円浮いたんだから,600万円の寄与分がある」といいたいところだろう。このような主張は認められるのであろうか。

 

2 寄与分の要件

寄与分が認められるための要件は,次の2つである(民法904条の2参照)

①被相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること

②寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させたこと

 

3 兄弟間の扶養義務

上記の「特別の寄与」を考えるに当たっては,兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務があることを考慮しなければならない(民法877条1項)。仮に家を買って住まわせることが,「身分関係に基づいて通常期待される程度」であれば,寄与分は認められないからである。

 

扶養義務の区別として有力に主張されてきたのが,生活保持義務と生活扶助義務という分類である。前者は,自己と同程度の水準まで扶養する義務であり,後者は,自己に余力があれば援助すべき義務であるとされる。前者は,夫婦関係における扶助義務と,親の子に対する扶助義務であり,後者は,ざっくり言って,それ以外の扶助義務である。兄弟間の扶養義務は,生活扶助義務に当たる。

 

4 寄与分の有無についての雑駁な感想

余力があれば援助すべき義務の中に,土地建物を買ってあげることも含まれるというのは,ちょっと無理な話ではなかろうか。そうすると,「特別の寄与」があったと言ってよさそうである。もともと借家住まいの弟にとってしてみれば,家賃相当分を浮かせることができたのであるから,おそらく,財産の維持又は増加があったと言ってよさそうである。

 

そうすると,この事件では,一定額の寄与分を認めるのが相当だ,ということにはなりそうである。では,いくらの寄与分を認めるべきであろうか。民法上は,「寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める」としか書いておらず,実際の適用は,家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられているところである。

 

裁判所の裁量がどのように行使されるかは分からないが,予想してみると,一応,金銭等出資型の類型では,「相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量割合」という式が提示されている。兄の法定相続分が25%であるから,裁量割合として75%を考え,「5万円×120か月×0.75=450万円」となるのか。しかし,そうすると,遺産のうちの結構な額を持って行ってしまうことになる。これでよいのだろうか。例えば,弟に25年間住まわせていたら,土地建物を準備してあげたことだけで,遺産の全部を持っていくことになるが,それでいいのだろうか。

この点は,おそらく,居住期間が10年間という点がポイントではなかろうかと思う。すなわち,残された遺産は預貯金であり,10年間家賃が浮いたからと言って,それが全部貯金に回っているはずがないと思われる。そうすると,「寄与の時期」を考慮して,裁量割合をもっと下げていいのではないかと思われる(寄与分は,遺産の維持又は増加に対する貢献をみるものなので,遺産の維持の度合いがおもったより高くなければ,裁量割合を低くしてもいいと思う。)。5割くらいになるのではないだろうか。そうすると,300万円の寄与となり,落ち着きどころとしては悪くない。