へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

受精卵無断使用訴訟に対する意見

mainichi.jp

男性側が控訴しましたね。個人的な感覚としては,男性は敗訴するだろうなぁと思います。婚姻中に懐胎した子で,血縁関係までもある以上,受精卵が無断で使用されたとしても,法律上は,親子関係があるとして扱うのは,当然ではないかと思うのです。

 

こうした意見に対しては,やはり,「そうはいっても,子を作ることについての同意もしていないのに,親子関係があると扱われるのは不当だ」という意見もあるところだとは思います。

 

こうした意見の根本にあるのは,「意思に基づく子でなければ親子として扱うべきでない」「親子関係は,親とされる人の意思に基づいていなければならない」という考え方でしょうか。しかし,この考え方には賛同できません。

 

これは,感情論とか,道徳論というよりも,民法という制度上の問題です。

 

民法は,大きく分けて財産法と家族法に分けられます。

財産法における重要なルールは,私的自治の原則や契約自由の原則です。そこでは,契約内容は,国家の干渉を受けずに契約の内容を決めることができたり,自らの意思に基づかない契約には拘束されないといったことを意味します。

他方,家族法は,国家の在り方を決める制度として定められ,その多くは強行法規です。つまり,家族関係は,国家が定めた枠組みの中において法的な効果を認められるということで,そこでは,本人の意思も,法律が定める中で考慮されるにすぎません。例えば,どんなに親子間でいがみ合っていても,親が子に対する扶養義務を免除されるわけではありません。

 

「家族関係に関することであっても,完全に自分で自由に決められる」という理解は,財産法的な理解が前提となっているもので,家族法の制度の建前と整合しないのです。そうした考えは,裁判所には採用されないでしょう。

 

そうはいっても,個人レベルで納得できないという気持ちも当然あるでしょう。こうした訴訟が生じること自体はやむを得ないと思いますが,おそらく裁判所の立場は,そうした人にとっては厳しいものになると思われますし,それはやむをえないと私は思います。

 

もちろん,今回のような訴訟が積み重なるとともに,時代の推移等により,嫡出推定の制度それ自体が不合理で憲法に違反し無効だという話になれば,話は別です。ただ,個人的には,それはまだまだ先の話だと思います。親子関係の安定という要請はやはり重要で,「この子はうちの子じゃない」なんていう争いをいつまでも認めるべきではないと思います。