へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

熟年離婚における老後の年金額の格差をなくすための手続(年金分割)

【設例】

A(昭和35年生まれ)とB(昭和40年生まれ)は,平成3年1月1日に婚姻した。Aは,婚姻中,会社で勤務し,平均して年収600万円を得ていた。Bは,パートで働き,平均して年収150万円を得ていたほか,家事育児を主に担当していた。ところが,AとBは年齢を重ねるにつれ折り合いが悪くなり,平成28年1月1日,子供の独立を機に協議離婚した。

離婚して半年後,Bは,老後の生計の計画を立てていたところ,年金額につき,Aの方が自分よりも多いことを知った。Bとしては,家事育児に励んで家を支えながら仕事をしていたのであり,Aよりも年金額が少ないことにどこか納得できない。Bとしては,どのような制度を利用することができるであろうか。

 

【解説】

まず,なぜAとBで年金額に差があるのだろうか。AとBはいずれも厚生年金の被保険者(いわゆる2号被保険者)であるが,厚生年金の保険料は,定額ではなく概ね報酬に比例するため,報酬をより多く受けていた方が,多くの保険料を納めることになり,したがって,受給できる老齢厚生年金の額も多くなるからである。とまぁ,年金の話を詳しくしても仕方がないので,詳しい話は他のサイトを参照してほしい。

 

さて,とりあえず,AとBの年金額の差は,厚生年金の制度に基づくことを一応述べた。しかし,【設例】でBが(正当に)不満を抱いているように,現役時代の男女の雇用の格差等によって,年金受給額に格差が生じることになるが,これでは不公平な感が否めない。そこで,この格差を是正する方法として定められたのが,離婚時年金分割制度である。

 

この制度は,婚姻期間中の標準報酬を一方の配偶者から他方の配偶者へ分割することを認めるものである。どの程度分割するかについては,通常,平等になるようにされる(按分割合を0.5とする)。【設例】を題材に考えると,Aは年収600万円で25年間働いていたので,とりあえず標準報酬を1億5000万円とし,Bは年収150万円で25年間はたらいたので,とりあえず標準報酬を3750万円としよう(正確な計算は私には分かりかねるので,「とりあえず」である。)。この場合,AからBに5625万円分の標準報酬を移せば,AもBも9375万円ずつで平等となる。これによって,AもBも老後に受けられる年金の額が平等になるわけである。離婚時年金分割制度は,こうして老後の年金額の格差を是正

 するわけである。

この離婚時年金分割の制度は,離婚日の翌日から2年以内に請求しないと認められないので注意が必要である。本来的には,離婚の際に合意しておくのが一番安心だろう。
 

さて,それでは,実際にBはどのような手続きを踏めば以上のような平等な結論に持っていけるのだろうか。まず,標準報酬額がいくらかを知らないといけない。これを知るには,年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取得する必要がある。取得方法は,年金機構のHPを参照してもらいたいが,要するに,年金手帳と,婚姻期間が分かる戸籍謄本を持って年金事務所に行けばよい。

 

その上で,按分割合を決めなければならない。合意(「AとBとの間の別紙記載の情報に係る年金分割につての請求すべき按分割合を,0.5と定める。」との合意文書を作り,別紙として上記の年金分割のための情報通知書を添付する。)ができればそれでよいし,合意ができなければ裁判所に審判又は調停を求めることになる。この点は裁判所HPを参照していただきたい。

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_17/index.html

まぁ,年金分割に当たっては,按分割合0.5以外の判断が出ることは,まずないと思ってもらってよいだろう。離婚した相手が,0.3とかしか認めないとかごねるようであれば,通らない主張であるので,さっさと裁判所に行った方がよい。少し時間はかかるが。

 

その上で,按分割合の合意書又は審判書等をもって,年金事務所に行って請求手続をすることになる。

 

手続をまとめると,①年金分割のための情報通知書を取得する,②按分割合を定める(合意又は裁判),③年金事務所で手続をする,という感じである。

 

まぁ,弁護士に頼むのが一番だとは思うが,誰がやっても結論は同じになる(=按分割合0.5)と思われるので,手続的な苦労を厭わなければ,自分でやってもよいだろう。役所も仕事なので,聞けば手続をきちんと教えてくれるので,そうそう失敗はしない(はず。)。

 

もちろん,失敗したとしても,私は責任は取らないが。