へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

刑事裁判において,高等裁判所は地裁の無罪判決を証拠調べすることなく逆転有罪にできるか(最高裁令和2年1月23日判決)

【事案】
地裁判決:窃盗1件,詐欺1件,詐欺未遂3件については有罪。その一方,家電量販店で不正な身分証明書を利用してクレジットカードを発行し,商品を購入したという詐欺事件については,犯人であるとする立証がないとして,無罪とした。

これに対し,東京高裁は,被告人が犯人だとして,地裁判決を破棄して,有罪の判決を言い渡した。この際,東京高裁は,証拠調べをすることなく,一審の記録に基づき逆転有罪判決を言い渡した。

刑事訴訟法400条ただし書きは,高等裁判所は,一審の記録のみに基づき破棄自判の判決をすることができると定めている。しかし,判例上,無罪判決を逆転有罪にする場合には,この400条ただし書きの規定によってはならないとしている。

したがって,東京高裁の判決は,この判例には反するものであったが,東京高裁は,この判例は今日ではもはや当てはまらないとして,あえて破棄自判をした。

【最高裁の判断】
これまでの判例は,被告人は,公判廷においても,公判廷における直接審理主義,口頭弁論主義の原則といった憲法上の原則の適用を受けるべきであることを理由に,上記の刑訴法400条ただし書きの解釈を導き出している。この解釈が変更されるような事情はなく,判例を変更すべきではない。東京高裁の判断を破棄し,差戻し。

【コメント】
なんで東京高裁はこうした判断をしたのだろうかと疑問が生じなくもない。事実の取調べをすればよかっただけのようにも思えるが。東京高裁判決をちょっと読んでみたいところだ(一部最高裁判決に要約されているが。)。ひょっとして,結審後に判断が変わった,ということなのか?そうであっても弁論の再開をすればよかったような気もする。でも,たぶん,そんなに単純な話ではないんだろうなぁ。