へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

成年後見人が気に入らない!変更ってできないの?

【設例】

 東京に住んでいた私の母に対して、私の知らない間に、成年後見が開始されていました。母の成年後見人として、東京の弁護士が選任されたそうです。ところが、母は、突然、私が住んでいる広島県の施設に入所したいと言い出しました。そのため、現在、母は,広島県内の施設に入所しています。私は、週に1回程度施設を訪れ、母の面倒を見ています。

 ところが、東京の弁護士とはあまり連絡が取れません。連絡が取れたとしても、母の介助のために必要な物品の購入について、「それは支出できない」の一点張りです。別に母の財産が欲しいわけではないのですが、成年後見人は自分の報酬のことしか考えていないのではないかと不信感を抱いています。成年後見人を解任させたり、又は、私自身が成年後見人に新たになったりすることはできないのでしょうか。

 

 

よくありそうな事例だが,結論から言うと後見人を辞任させたり,変更したりすることは、そう簡単には認められない。成年後見人は、成年被後見人(以下「本人」と言う。)の財産を守るため、公的な立場から選任されるもので、一度選任された以上は、何か特別な理由がない限り、勝手に後見人を辞任したり、他の人に変わってもらったりすることはできないのである。

法律上は、次のようになっている。

  • 後見人が辞任するためには、正当な事由が必要(民法845条)。
    → 例えば、高齢や病気のため、職務を行えないなど。
  • 後見人を解任させるためには、家庭裁判所に対して、「不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由」あったと証明することが必要(民法846条)。

 なお、成年後見制度は、判断能力の欠如を理由に、成年後見人を選任して本人の財産を適切に管理することを目的とする制度なので、成年後見人の選任後、例えば、本人をきちんと介護できる人がいることが判明したとしても、成年後見開始の決定が取り消されることにはならない。もちろん、そうではなく、本人の判断能力が非常に改善した、といった事情がある場合には、後見開始の審判の取消の申立てをする余地がある(民法10条)。

そしたらせめて自分も成年後見人に選んでくれ,という要望があるかもしれない。前提として,成年後見人として誰を選任するかは、家庭裁判所の裁量に委ねられており、家庭裁判所が適切であると判断すれば、親族であっても成年後見人になることはできる(実際に、数多くの事例においてご親族が成年後見人として選任されている)。

そして、既に成年後見人が選任されている場合であっても、家庭裁判所が必要であると認めた場合には、追加で成年後見人を選任することは可能である(民法843条3項)。

しかし,実際に複数選任されるかは,そう簡単ではない。複数選任するかのポイントは、制度の趣旨からすると,本人の財産の管理を適切にするために複数の成年後見人を選任することが必要かつ相当かというものになると思われる。例えば、成年後見人と本人とが遠隔地に居住しているため、後見事務が適切に処理することができない場合などは、本人の近くに暮らす方を別途後見人に選任する余地はなくはない。もっとも,その場合でも,成年後見人が弁護士で、本人が入所している施設と十分に連携をとっている場合には、複数選任する必要性や相当性を見出すのは厳しいと思われる。

そもそも,親族が成年後見人に対して不信感を持っており,複数選任されたとしても成年後見人同士で対立が起こるようなことが予想されるような場合には,まさに本末転倒なので,複数選任することは相当でないということになろう。複数選任は、それぞれの成年後見人が公平な立場で、信頼関係に基づき、適切に事務処理ができる場合に限って、検討されることになると思われる。

親族の方がよく思うのは,成年後見人は自分の報酬のためにお金をケチっているんじゃないか,ということだが,普通はそうではない。もちろん,成年後見人に対しては、一定の報酬が支払われるが、もちろん、自分で勝手に報酬額を決められるわけではなく、家庭裁判所が相当な報酬を決定する(民法862条)。

そして,以下の通り、報酬には一定程度の「相場」がある(大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額の目安」参照。)。すなわち,

 ・管理財産1000万円以下 月額2万円
 ・管理財産1000万円超~5000万円以下 月額3~4万
 ・管理財産5000万円超 月額5~6万円

このように、管理財産額が増大したとしても、月額報酬が大幅に増えるという関係にある、とまでは言えない。そのため,財産をケチっても,後見人にとってそうメリットがあるわけではないのである。疑いたくなる気持ちは分かるが,成年後見人は公的な立場から選ばれたもので,決して自己の利益のためだけに動いているわけではない。

もっとも,本人の食費、被服費、医療費等、本人の生活に必要な費用については、本人の財産から支出すべきものであり,本人の意思を確認・尊重し、本人の生活に必要なのであれば、支出行為は適切に行うのが成年後見人の責務かと思われる(民法858条参照)。そのため,支出の必要性等をきちんと成年後見人に説明することは,意味があることだと思われる。

また、本人に対して、相当な額の小遣いを与えるといった例もある(飲み物一つ買うにも成年後見人が買わないといけないわけでは当然ない。なお、本人がした日用品の購入その他日常生活に関する法律行為は、成年後見人であっても、取り消すことはできない(民法9条)。)。この辺りの日常用の介助のための相当な額の小遣いを求めたりすることは考えられる選択肢ではないかと思われる。

ただ,そうは言っても,例えば,現在の成年後見人と交渉して,現在の成年後見人の辞任願いと新たな成年後見人の選任願いの上申書を裁判所に提出することができれば,ひょっとしたら裁判所はウルトラC(死語)で考慮してくれるかもしれない(裁判所も,上記の建前があるとは言え,実際に機能しないと困るので,より機能する選択肢があれば,認めてくれる余地があるのではないか,と思う。)。いずれにせよ,現在の成年後見人が気に入らないからと言って,喧嘩することは一つもよいことがないので,紳士的に交渉を進めることが重要であろう。