へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

少年事件における証人尋問を実施すべきかどうかの判断基準と参考事例と雑感と。

少年事件では,刑事事件とは異なり,一件記録がすべて裁判所に提出される。そのため,裁判所は,少年が否認する供述をしていても,一件記録上,非行事実は十分認定できるとして,証人尋問を実施しないまま少年を保護処分に付す,という事態が生じる。

 

実際,少年事件においては,刑事訴訟法のような詳細な証拠調べに関する規定はない。他方,最決昭和58年10月26日は,「非行事実の認定に関する証拠調べの範囲,程度,方法の決定も,家庭裁判所の完全な自由裁量に属するものではなく,少年法及び少年審判規則は,これを家庭裁判所の合理的な裁量に委ねた趣旨と解すべきである。」としており,一定の場合には,家庭裁判所が証人尋問を実施しない場合,法令違反となる余地を認めている。

なんにせよ,少年事件において証人尋問を実施するかは,裁判官の「合理的な裁量」に委ねられているわけである。

 

とはいえ,「合理的な裁量」であればよいから,少年や付添人の求めにもかかわらず証人尋問を実施しなかったとしても,ただちに違法にはならない(東京高裁平成17年8月10日決定や,東京高裁平成27年10月26日決定等)。

 

しかし,保護処分も,少年にとっては前歴として残る不利益処分であるから,基本的には,刑事手続と同じように,少年に対して反対尋問の機会を保障するなどして,手続保障を充実させるべきではないだろうか。

 

そうした中,東京高裁平成27年7月8日決定は,窃盗保護事件において,共犯少年らの証人尋問を実施せずに非行事実を認定した原決定の手続には,決定に影響を及ぼす法令違反があるとして,事件を差し戻した。

 

事案を簡単に紹介しよう。少年Aは,B及びCと共謀して,オートバイ1台を盗んだとして家庭裁判所に送致された。オートバイ窃盗の事案である。少年の言い分は,要するに,オートバイを盗んだのはBとCであり,自分は,BとCがオートバイを盗んだあとたまたま合流したにすぎない,というものである。そして,東京高裁の判断は,ごく大雑把にいうと,客観的な証拠からは少年が事件に関与したかは明らかでなく,結局,共犯者BCの供述の信用性評価が最も重要であるが,BCの供述には変遷があるなどし,これを裏付ける客観的な証拠もないから,証人尋問をせずにBCの調書に信用性を認めるのは,やりすぎだ,というものである。

 

原決定は,おそらく,共犯者が最終的には一致して少年が事件に関与していたことを供述していたことを重視していたのではないかと思われる。実際,調書の内容が一致している場合のインパクトは,結構大きい。しかし,そこは調書は調書。しかも,少年の調書である。調書の作成は,一般に,警察又は検察が事情をまんべんなく聴き,それを最後にまとめて読みきかせるという手段で行われる。しかし,20分も30分も事情を聞かれ,その後,一気に目の前の刑事が「きみの話をまとめるね」とかいって,調書を作り始めるのである。そして,おもむろに調書が印刷され,「間違っていたら指摘してください」などといって,渡される。中には,20頁とかにわたる調書がある。これで,内容を正確に読みつく理解して,間違いがあれば指摘した上で調書にサインできる少年(しかも中学生)がどれだけいるだろうか。東京高裁は指摘してない(できない?)が,やはり中学生くらいの少年の調書の信用性は,慎重に考えるべきで,少年が一貫して否認するような場合であれば,比較的柔軟に事情を聴くべきではないか,と思う。

 

他方,東京高裁平成17年8月10日決定の事案とかを見ると,悩ましくなってしまう。同決定の事案は,7歳や13歳の女の子に対する強制わいせつなどであり,女の子らの証人尋問を実施しなかった原決定の手続に法令違反はないとしている。どうやら,少年は,観護措置段階まで事実を認めていたが,途中で否認に転じたようである。さて,7歳とか13歳の女の子に当時のことを思い出して話してもらうことがいいものだろうか。少年は捜査段階では自白していて,その取調べ担当警察官の尋問もしている。この辺りを考えて,尋問を実施しないとすることも,あり得ないものとはいえないのでは。証人が小さい女の子であろうが,少年に不利益処分を科す以上,萎縮してはならない,柔軟に証人尋問をすべきだ,というのが正論なのかもしれないが(なお、川出教授はこの決定は疑問だとしている。やはり、証人尋問をすべきという方向でけんとうすべきなのだろう。)。

 

裁判官は,「合理的な裁量」を行使しなければならない。ただ,何が合理的かというのは,考えると結構難しいものだ。裁判官の仕事は,やはり重責を伴うのだろう。

なんだかんだ言っているが,裁判例を見ていると,合理的な裁量かどうかは,一件記録を精査して,少年の言い分にかかわらず十分事実を認定できるといえるか,疑いが残かを基準に判断するべきもので,疑いが残る場合には,躊躇せず証人尋問をやる,というのが,あるべき姿なのかな,とは思う。