へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

弁論準備手続あれこれ

【はじめに】

民事訴訟と言えば、多数の傍聴人がかたずをのんで見守る中、公開の法廷に裁判官と当事者が集まって、事件について、口頭でアツい議論を進める…なんていうイメージを持っている人はさすがに多くはないかもしれない。

そこまではいかずとも、民事訴訟では公開の法廷で黒服をきた裁判官と、スーツで決めた弁護士がいろいろやっているんだろうな、と思う人はいるかもしれない。

ところが、実際には、一つの事件で裁判官が公開の法廷に現れる回数は、多くの事件で、そう多いものではない。実際には、第1回口頭弁論期日は公開の法廷で行われるものの、その場で、裁判長が「本件は、弁論準備手続に付したいと思いますが、よろしいですか」とおもむろに聞き(民訴法168条で当事者の意見を聞くことになっている。)、双方当事者が、「はい、結構です。」と答え、次回からは非公開の弁論準備手続で争点や証拠の整理が行われる(裁判所のイチ会議室で行われるもので、裁判所によっては結構狭い部屋で行われることもある。)。次に裁判長が公開の法廷に現れるのは、証人尋問期日か、あるいは、判決言い渡しの時なのである。
(※なお、行政事件など、公開法廷で実施することが相当であるものについては、弁論準備手続を用いず、公開法廷で争点と証拠の整理が行われることもある。)

今回は、この弁論準備手続(以下、実務家っぽく「弁準」という。)について少し整理してみたい(誰得かは知らんが。)

 

【弁準の目的】

弁準の目的について、民訴法168条は、次のとおり述べている。

「裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる。」

つまり、弁準は、「争点及び証拠の整理を行う」ための手続である。

 

【弁準の期日】

次に、弁準の期日だが、先ほども述べたように、公開法廷で行うものではない。民訴法169条は、次のように述べる。

1項「弁論準備手続は、当事者双方が立ち会うことができる期日において行う。
2項「裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない。」

つまり、弁準には、当事者は立ち会うことが予定されているが、傍聴人については、当事者の申出があった場合に裁量的に認めるのみであって、一般公開はされていない、ということになる。争点や証拠の整理は、自由な議論によってより効果的になるものである、という考えのもと、弁準の傍聴者を絞っているということかと思われる(もっとも、弁準が本来の立法趣旨から離れて、書面交換の場になってしまっているという批判もある。)。

 

【弁準の登場人物】

基本的には弁準には事件を担当する裁判官と、当事者(+代理人)が出頭する。ただし、裁判官についていうと、民訴法171条1項は「裁判所は、受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができる。」としてあり、合議事件などでは、3人の裁判官全員が出席するのではなく、例えば左陪席だけ、あるいは、右陪席を抜いた裁判長+左陪席のみが出席する、ということもある。

 

【電話会議】

弁準は、電話会議によってすることもできる。すなわち、民訴法171条3項は、「裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。」としている。なお、ただし書があるせいで、当事者のどちらかは裁判所に来なくてはならないので、全員がウェブ会議システムを使って弁準をやる、ということはできない(この点、書面による準備手続が活用されているようであるが、民訴法を変えたほうが良いと思うな。)。

 

【弁準の中身】

弁準は、比較的インフォーマルな手続きであり、主張と証拠を整理するという目的の下で、各裁判官がそれぞれの手法で実施しているのが実態である。

主張の整理に関しては、やはり、準備書面の提出が中心となる。すなわち、民訴法170条1項は、「裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。」としており、事前に提出された準備書面に基づき、主張内容についての確認がされる。

証拠の整理に関しては、民訴法171条2項が、「裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。」としている。したがって、弁準では、文書の証拠調べ(原本を当事者に提出させて、裁判官がこれを閲読すること)や、必要な証拠決定をすることができる。

まぁ、要するに、訴訟で争いがある点はどこかを確認して、その争いがある点をどうやって立証するのかを整理していく手続、ということになる。

 

【蛇足~受命裁判官ができることとできないこと】

マニアックな話になるが、受命裁判官が弁準を担当する際には、できることとできないことがある。この辺りは、170条及び171条をパズルのように読み解いて考えていくしかないが、結論的には、次のとおりである。

①調査嘱託の決定、鑑定嘱託の決定、送付嘱託の決定、証拠書類の証拠決定ができる(民訴法171条3項)

②証拠書類の取調べができる(民訴法171条2項、170条2項)

③口頭弁論の分離・併合ができる(民訴法171条2項、170条5項、152条1項)

④時期に後れた攻撃防御方法の却下ができる(民訴法171条2項、170条5項、157条)

⑤釈明、釈明処分ができる(民訴法171条2項、170条5項、149条1項、151条)

 

【弁準の終了】

以上の権限を行使し、議論を重ね、争点と証拠の整理ができれば、弁準の終了時に、っその後の証拠調べによって証明すべき事実を確認し、それを調書に記載することとされている(民訴法170条5項、165条1項)。

 

・・・

 

以上のような手続が終了すれば、証拠調べ(典型的には証人尋問)のために、第2回口頭弁論期日が指定される。なので、民事訴訟における大まかな流れは、

第1回口頭弁論期日 → 弁準(複数回が通常) → 第2回口頭弁論期日(証人尋問) → 第3回口頭弁論期日(最終弁論) → 判決言渡し

という流れが実は多い。

 

・・・この記事はいったい誰に需要があるのだろうか。