へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

同居の拒絶に対する法的な対抗手段

【事例】

XとYは夫婦である。ある日、xが家に帰ろうとすると、鍵が変えられており、yに聞くと、「あなたとの生活は無理なのでどこかへ行ってください」とのことだった。家の所有名義はxである。xとしては、yに対していかなる請求を成しうるだろうか。

 

【検討】

1  損害賠償請求の可否

夫婦の同居協力義務については、民法752条が「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定する。これによれば、夫婦には、同居、協力、扶助の義務があり、これに違反した場合には、一般的には、損害賠償請求の原因となりうると解されている。

もっとも、別居する夫婦は世の中に多数あり、これが全て損害賠償の問題になりうるはずがない。例えば、夫婦関係が破綻している場合や、他方配偶者に有責性がある場合に同居義務を課すのは、おかしい。実際の裁判実務でも、このような場合には同居義務があるとはいえないと判断している。例えば、同居を拒否する合理的事由の存否を問題にする例(東京高裁平成9年9月29日決定)、同居を命ずることが個人の尊厳を損なうか否かを問題にする例(東京高裁平成13年4月6日決定)などがある。このような判断からすると、別居を原因として損害賠償請求が認められるのは、別居について正当な理由がない場合、ということになろう(ただ、正当な理由については抗弁となるのではなかろうか。)。

 

2  建物明渡請求の可否

本件の事例では、家の所有権はxにあることから、xとしては、yに対して建物を明け渡すよう請求することが考えられるであろう。要件事実的には、x所有、y占有となるから、請求自体は立つことになりそうである。

しかし、仲が悪くなったからといってこのような請求を安易に認めることが相当でない。夫婦間の問題には、いずれか一方に一方的な責任があることは少なく、多くのケースでどっちもどっちである。このような場合に、建物の所有名義を盾にして、建物明渡請求を認めることはおかしいであろう。裁判例でも、yについて、夫婦共同生活の場所として、建物に居住する権原を有すると解すべきとした事例がある(東京地裁昭和62年2月24日)。他方、婚姻の破綻の原因を招いた側が家に居座るような事例だと、流石に明渡しを認めた事例もある(東京地裁平成3年3月6日)。事例では、xが締め出された原因等を究明し、基本的には居住権原が認められうるyに対して建物を明け渡すよう請求するような合理的な理由があるかどうかを見極め、yに実質的な使用権原があるかどうかを判断していくことになるものと思われる。

 

3  妨害排除請求の可否

その他の法律構成として、xとしてはその家に居住したいんだ、として、yによる建物使用を妨害することをやめてほしいとして所有権ないし占有権に基づく妨害排除請求をすることも考えられるであろう。この主張を認めた事例として、東京地裁令和元年9月13日判決がある。これに対しては、yの方では権利濫用を主張する程度しか防衛手段はないのではなかろうか。たとえば、yはその家で居住してyにも保護されるべき利益があるところ、別居をするに至った原因はもっぱらxにあり、yとして締め出すことについては正当な理由があるのに、形式的に所有権や占有権のみを持って実質的に同居をさせる結果を生じさせるのは、権利の濫用である、といったものだろう。少し苦しいが、具体的な事例によっては通らない主張ではないかもしれない。

 

【資料】

新家族法実務体系①262p以下

判例タイムズ747号(夫婦・親子215題)