へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

固有必要的共同訴訟に関する思考整理

実務で訴訟をやっていると、「あれ、これって共有者全員を当事者としなくてよいっけ?」と悩む事例に出くわす。例えば、原告が、ある土地を時効取得したと主張して、所有権移転登記を求める事案について、その土地の共有者のうち2名については協力を申し出る一方、そのほかの1名については同意が得られず訴訟やむなしとする場合に、1人を被告にすれば良いのか、それとも共有者全員を被告にしなければならないのか、という感じである(仮に固有必要的共同訴訟となると、被告が3人とかならまだ良いが、登記が古く、相続が繰り返されており、被告が40人とかになってくると、目も当てられない。)。

これは、当該訴訟がいわゆる固有必要的共同訴訟に該当するかどうかという問題となるわけだが、その判断基準が今ひとつわかりにくいし、本をざっと読んでみてもいまひとつ入ってこない。そこで、この点について少し整理してみたいと思う(共同訴訟の基礎だとか、必要的共同訴訟の手続的規律等については割愛し、あくまで固有必要的共同訴訟となるか否かという観点からのみ整理する。)。

1 固有必要的共同訴訟

固有必要的共同訴訟とは、上記のとおり、合一確定の必要性があり、かつ、訴訟共同も必要とされる訴訟類型である。この場合、関係者全員が当事者となっていなければ当事者適格を満たさず、訴えが却下されることになる(最初の例でいえば、共有者全員を被告としないと、訴えを却下されてしまう。なんとも厄介なことである。)。

固有必要的共同訴訟のうち、他人間の法律関係に変動を生じさせる訴訟や(婚姻無効の訴訟を第三者が提起したり、取締役解任の訴えを提起する場合)、目的となる権利について管理処分権が数人に帰属している場合(例えば、破産財団に関する訴訟で、数人の破産管財人がいる場合)などは、その関係者全員に訴訟に関与させないとマズいことになるので、固有必要的共同訴訟に該当するというのは、比較的イメージが湧きやすい。そのノリでいくと、共同所有に関する訴訟についても、固有必要的共同訴訟にしましょう、という方向に行きそうであるが、ここが難しいところとなる。

2 共有関係と固有必要的共同訴訟についての基本的な考え方(入会とかは割愛)

共有関係に関する訴訟について、固有必要的共同訴訟であるかを検討するに当たっては、当該訴訟において問題となる権利の種類に着目して決めることが重要である(実体法を基準に整理する。)。共有権それ自体が訴訟の対象になる場合には、原則として固有必要的共同訴訟として処理され、共有持分権をもって権限の単独行使が可能な場合には固有必要的共同訴訟であることを否定し、さらに、共有権それ自体が訴訟の対象となる場合であっても、保存行為(民法252条5項参照)や不可分債権といった、実体法上単独行使が可能な権利として構成することができる場合には、固有必要的共同訴訟とはならない。つまり、共有者が単独で行使することができる権利が訴訟の目的であれば、固有必要的共同訴訟ではないと整理するわけである。

なお、このような議論が生じる背景には、固有必要的共同訴訟は「大変」なので、その範囲をできるだけ絞ることができないか、という考えがあると思われる。共有関係が訴訟の目的であれば、全部固有必要的共同訴訟にしてしまえばいいじゃん、という考えは、思考整理としては単純明快だが、冒頭の事例のように、「そこまでやる必要ある?」という例もなくはない。固有必要的共同訴訟を拡大することは、手続を不必要に重くするおそれがあるので、できるだけその適用範囲を狭めることができないか、という考えがあるのではないかと思われる。

そうした観点からすると、実体法を基準に整理するといっても、訴訟法的な観点を無視することまではできず、手続的側面も、利益衡量の一環として考慮してもよさそうである(実際、最判昭和43年3月15日はこの観点についても触れる。)。重点講義(高橋宏志)では、訴訟物たる権利の性質、紛争解決の実効性、原告被告間の利害の調節、当事者と当事者にならない利害関係人の間の利害の調節、当該手続の進行状況など、実体法的観点と訴訟法的観点との双方から衡量して判定していくべきである、とされている。

3 共有関係と固有必要的共同訴訟にかかる判例の整理

⑴ 共有者相互の間で行われる訴訟

ア 固有必要的共同訴訟とされたもの
  遺産確認訴訟(最判平成元年3月28日等)
  相続人地位不存在確認訴訟(最判平成16年7月6日)
  遺産分割無効確認訴訟(福岡高裁平成4年10月29日)
   ※ これら3つの訴訟は、共有関係の確認を求める実体法上の観点からも説明できるし(伊藤真民訴第7版672p)、共同所有者間で判断を統一しなければならないという要請に基づき、固有必要的共同訴訟とされているとも説明できる。
  共有物分割訴訟(大判明治41年9月25日等)

イ 固有必要的共同訴訟でないとされたもの
  共有持分権の確認を求める訴訟(大判大正13年5月19日)
  遺言無効確認訴訟(最判昭和56年9月11日等)

⑵ 共有関係者が原告となって第三者を訴える訴訟

ア 固有必要的共同訴訟とされたもの
  夫婦が原告として第三者に対して所有権確認+移転登記請求を求めた事案(最判昭和46年10月7日。共有者が有する1個の所有権そのものが問題となっているとされる。)
  共有者全員が共同原告となり、共有権(数名が共同して有する1個の所有権)に基づき移転登記手続を請求した事案(最判昭和46年10月7日。同様に、共有者が有する1個の所有権そのものが問題となっている。)
  共有地にかかる境界確定訴訟(最判昭和46年12月9日、最判平成11年11月9日)

イ 固有必要的共同訴訟でないとされたもの
  共有持分権の確認訴訟(最判昭和40年5月20日。共有持分権が対象)
  共同所有権に基づく特定物の給付請求(最判昭和42年8月25日、保存行為)
  抹消登記請求(最判昭和33年7月22日、最判平成15年7月11日。保存行為ないし共有持分権それ自体による妨害排除請求権。なお、最判平成22年4月20日)
  要役地のために承役地上に地役権設定登記手続を求める訴え(最判平成7年7月18日)
  預金取引経過開示請求(最判平成21年1月22日。保存行為)がある。

⑶ 共有関係者が被告となって第三者から訴えられる訴訟

ア 固有必要的共同訴訟とされたもの
  原告が、所有権に基づき、共同して建物を競落した被告等に対して、その共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求した事案(最判昭和38年3月12日。最判昭和43年3月15日とは異なり、所有権に基づく請求をしている点に注意。同最判調査官解説では、本件は契約上の履行請求をしている昭和43年最判の事件とは事案が異なるとされている。)
  原告が、被相続人から不動産を買ったがその登記を経由しない間に、虚偽の贈与に基づき第三者に単独の所有権移転登記が経由されたという事案について、原告が、当該第三者に対して贈与の無効を求めるとともに、被相続人との間の売買契約に基づき、被相続人の相続人らに対して所有権移転登記手続を請求した事案(最判昭和34年3月26日。売買契約を理由とする所有権移転登記請求なのだから、最判昭和36年12月15日と平仄を合わせるのならば、固有必要的共同訴訟ではないのではないか、という気がする。)

イ 固有必要的共同訴訟でないとされたもの
  建物収去土地明渡義務(最判昭和43年3月15日。不可分債務であることが理由)
  農地の売主の協働相続人に対して知事に対する許可申請手続き協力義務の履行を求める訴訟(最判昭和38年10月1日)
  売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟(最判昭和36年12月15日。不可分債務を理由とする)
  家屋台帳上建物の共有名義人となっている被告に対して、原告が自らの所有権の確認を求めた事件(最判昭和34年7月3日。訴訟の目的物は原告の所有権であって、被告等の共同所有権ではないので当然か。)
  賃貸人の共同相続人を被告とする賃貸借権確認請求事件(最判昭和45年5月22日)

4 最初の設例について

調べ始めた当初は、判例に答えがすぐあるだろうなぁと思っていたが、なんと、そのものズバリの最高裁判例が見当たらなかった。また、原告側については、比較的考え方が整理されていると思われるが、被告側については、権限の行使を受ける側ということで、若干実体法上の位置付けがわかりにくい点も問題の解決を困難にしている。最初の設例は、時効取得であって、その訴訟物(所有権に基づく妨害排除請求権としての移転登記請求権)からすると、最判昭和38年3月12日に照らし、固有必要的共同訴訟とする余地があるのかもしれない(この点、東京高裁昭和61年8月28日は、原告が土地を時効取得したとして、登記名義人の協働相続人等に対して時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めた事案について、固有必要的共同訴訟に該当する旨の判断をしている。この裁判例によると、設例についても固有必要的共同訴訟であると解釈するのが自然であるように思われる。)。

しかし、事案の内容に照らし、全員を被告にしなければならず、かつ、手続分離も認めないというのは、事案の性質上、手続が重すぎるとも思える。そして、移転登記を求める訴訟は、登記申請の意思表示を求めるものであり、登記申請は、相続人全員が申請人とならなければならず、一部の者が移転登記の意思表示をしたところで、移転登記を完了することはできないから、手続分離をして順次判決をしても、問題は生じない。そこで、最高裁としてはなんとなく所有権に基づく請求→固有必要的共同訴訟、契約上の義務の履行→通常共同訴訟というように整理しているようにも見えるが、いずれの場合であっても登記申請義務は不可分債務の性質を有するとして、通常共同訴訟として取り扱って良いのではないかと思われる(なお、奈良秋夫「改訂判決による登記」127pは、固有必要的共同訴訟ではないとしつつ、類似必要的共同訴訟と整理している。)。

書き終わってみて思うが、全然「思考整理」になっていないなぁ・・・

 

参考文献
 高橋宏志 重点講義(下)第4講 共同訴訟
 民訴法コンメンタール第1巻527p以下
 伊藤真 民事訴訟法第7版