へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

法律についての説明の順序

いろいろと人に説明することが多いが、幸い、説明が上手だと褒めてもらえることはちょいちょいある。

そのため、法律の説明をする際に、ちょっと心掛けていることをメモしておく。

法律を理解するステップとしては、大まかに行って4段階あると思っている。

 

STEP1 

まず、それがどのような制度であるかの概要を、条文に即して理解できなければならない。

たとえば、窃盗罪であれば、人の物を窃取した場合に、刑罰に処せられる制度であり、その根拠条文は刑法235条である。

 

STEP2

次に、なぜそのような制度が作られたかを理解しなければならない。

たとえば、窃盗罪であれば、人の占有を保護するためのものである。占有状態を保護しなければ、個々人の財産権を守ることができないわけである。

 

STEP3

その次に、その制度の典型例を条文に即して説明できなければならない。

たとえば、スーパーの万引きであれば、スーパーの中に商品を陳列してある状態は、スーパーの店長の事実上の占有が及んでおり、その商品をスーパーの外に持ち出すことで、上記占有を脱出するため、「人の物を窃取した」と言える、したがって刑法235条に該当する、というように説明で着なければならない。

 

STEP4(+α)

さらに、余裕が有れば、上記典型例で説明しきれない微妙な問題を、条文の文言、制度の趣旨からどのように解釈すべきかを説明できると相当に理解が進む。ここで出てくるのが、判例である。

たとえば、バス停に人が置き忘れた財布を、置き忘れてから5秒後に持ち去る行為の場合、被害者の「占有」を侵害し、したがって窃盗罪に該当すると言えるか、などなど。

 

私が人に法律を説明する場合には、まずはSTEP1〜3を説明する。大抵の人はここで納得してくれる。想像力のある人だと、「じゃあこういう場合はどうなるのですか」などという説明をしてくるので、その際にSTEP4を説明するという感じだ。

なお、窃盗罪のような条文が1つしかない制度であれば、条文から説明するが、たとえば、自己株式取得の制限とか、複数の条文にまたがる場合には、まずはSTEP2を具体的な例とともに説明してから、STEP1とSTEP3を説明するという順番にすることが多い。

 

いわゆる論点学習は、STEP4に集中するものであるが、STEP4はSTEP1〜3を前提にした議論なので、いきなりSTEP4に行っても深く理解できるはずがない。まずは、STEP1〜3を固めるべきで、それができれば、法律の80%は理解できたと言っても過言ではない。ここまで理解してからSTEP4を勉強すれば、理解が圧倒的に早く進む(条文の構造、制度の趣旨からして、この論点はこう考えるべきなのだ、というように理解することができる)。こういう考え方こそ、私はリーガルマインドなのだと思う。