へーつぁんの自由研究日記

うだつのあがらない法曹の日常

副本条項(Counterparts Clause)が分からないので調べてみた

英文契約書の中で、counterparts条項がある。いろいろな本を読んでも今ひとつ意味がわからなかったので、ノートにまとめておくことにする。 

【サンプル条項】
this agreement may be executed in one or more counterparts, each of which shall be deemed an original, but all of which together shall constitute one and the same documents
(この合意は、1つ又はそれ以上の副本によって締結することができる。そして、それぞれの副本が原本とみなされる。もっとも、全部を合わせて一つの同じ書類を構成するものとする。) 

副本で契約をするとあるが,この条項を読んで,具体的にどういう場面を想定しているのか,すぐにわかる人なんているのだろうか…少なくとも私は全然分からなかった。

要するに,Counterpartsとは,「同じ内容の契約書のコピー」を作って(ただし、署名欄は空欄)、そのコピーにそれぞれが別々に署名をすることによって契約を締結することを認め、それぞれが所持している契約書のコピー(署名欄には自分の署名しかないので、相手方当事者の署名欄は空欄)は原本と同じ価値があるとしましょう、ということを意味する。

そうすると,「なんでそんなことするん?契約書の原本となるものを当事者の分だけ作って,みんなで署名すればいいやん?うちの会社だって、原本を2通作成して、その原本に当事者双方が署名した上、「本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保管する」って文言をつけて契約を締結しているよ。」という疑問が次に出てくる。そこで,次の事例を考えてみよう。 

○ 日本の企業A、アメリカの企業B、イギリスの企業Cが,長い交渉を経てある契約を締結することとした(電子署名はここでは考慮しない。ややこしいので)。A、B、Cは契約の内容を詰め、ようやく契約書のドラフトについて合意した。
 Aの代表取締役は,契約書の原本3通にサインをし,その原本を国際郵便でBに送付した。Bの代表取締役は,受領した契約書にサインし,それを国際郵便でCに送付した。Cの代表取締役は,受領した契約書にサインし,完成した原本を国際郵便でAとBに送付した。

ABCの行動は、迂遠なように見えるが、契約書の成立をきちんと確認する必要があるからこそ、こういった手間をかけているので、十分常識的である。もっとも、契約を早く成立させて債務を履行してもらいたいという要望がある場合には、こうした措置をとる時間はないかもしれない(当たり前であるが、契約締結前に債務を履行することは避けるべきである。)。また、契約当事者がさらに増えたら、もっと時間がかかるだろう。そこで、考え出されたのが、このCounterparts条項なわけである。

実際に何が起こるかというと,上記の事例でいうと,ABCそれぞれが,同一の契約書のコピー(すなわちcounterpart)を作成し,それぞれが契約書の末尾の自分の部分にサインをするのである。もちろん,それ以外の当事者の欄は空欄となる。これで,契約は締結することができるとするわけである。そして各自が保管する契約書は、他の当事者の署名欄が空欄であるにもかかわらず、原本としての価値を持つようになる。契約内容の最終合意から契約締結までの間が、飛躍的に短くなっていることに気づかれるだろう。

危なくないか?と思われた方もいると思う。もちろん,通常は,きちんと署名がされたことを確認するために,他の当事者の署名部分についてファックスやEメールなどでデータを送信してもらい,そのコピーを契約書に添付するようである。

いずれにしても、こうして,それぞれ自己の署名しかないcounterpartの契約書ができ,それぞれが一体となって,1部の同一の契約書とみなされる,ということである。

もちろん、契約は合意があれば成立するので,契約書の原本に全員のサインをすることは必須ではなく,上記のような方法であっても,契約は当然に成立させることができる。しかし,各当事者の手元にあるのは,自分の署名しかない契約書ということになり,将来的に「同じ契約書に私はサインしていない!契約は無効だ!」とか言われるリスクは,ゼロではない(とりあえず主張できることは何でも主張しようという弁護士もいるかもしれない。)。

そこで,上記のような方法であっても,契約は有効に締結できる(+強制執行等の法的手続をとる際の十分な証拠となる)ことを確認するのが,上記のConterparts条項なわけである。条項を入れること自体はコピペで10秒もあればできることなので,まぁ,原本を数通作ることによる契約締結をしない場合には、入れておくに越したことはないのだろう。

以上要するに,Counterparts条項は,遠隔地であるために同じ契約書にサインすることが障害となる場合に,それぞれ別々のコピーにサインすることを明示的に認めることで,一見すると全員のサインがなくて無効に見えるような契約書が,有効なものであることを担保するための条項である,と理解することができる。

ただし,それぞれの契約当事者が持つCounterpartsが何らかのミスで別々のものになってしまうと,紛争を引き起こしかねないので,契約当事者間で,何が最終の合意であるかは,きちんと確認しておく必要がある(一応,判例法でこれに対する一定のルールは存在するようである。)

応用編を言うと、署名した事実を確実なものとするため、署名したものを相手方に送付することを契約の成立要件とする条項もある。「署名部分を相手方に送付した際に契約は有効になるが、その送付の方法は、PDFやファックスの送信であっても有効なものとみなす」なんていう条項をつけておくこともあり得るようである。

英文契約書のチェックって難しいなぁ。

※インターネット上で利用可能な資料を探したところ,以下の資料が分かりやすいと感じた。
https://www.pwc.com.au/legal/assets/investing-in-infrastructure/iif-26-counterparts-boilerplate-clause-feb16-2.pdf