債権法改正における債権者代理権を,今更ながら復習してみよう。
もともと債権者代位権は,現行法上,423条が1か条定めているだけのものであるにもかかわらず,判例によってさまざまなルールが設定されており,債権総則を学ぶ際にも大きなトピックの中の一つである。しかし,法律を読んだだけでは分からないというのは困るので,判例等のルールのいくつかが,債権法改正によって明文化されている。具体的には,423条から423条の7まで条文が増えている。条文を追っていこう。
ただし、改正内容を見る限り、これまでのルールと大きな変更はないので、まぁ、ぶっちゃけ勉強しなくてもなんとかやっていけなくはないかなとは思われる。
1 423条
債権者代位権を行使するための要件は,423条によれば,
- 自己の債権が存在すること(債権の発生原因事実)
- 上記債権を保全するため必要があること
- 自己の債権の期限が到来していること(又は保存行為であること)
- 債務者に属する権利が存在すること(債権の発生原因事実)
である。自己の債権については,これまで一身専属の権利は行使できないとされていたが,改正法では,差押えを禁じられた債権も,これを行使することができないとされている(423条1項ただし書)。差押禁止債権は,民事執行法に定められているが,例えば,給料債権であれば4分の3は差押禁止債権とされる。また,債権者の権利が強制執行によって実現することができないものである場合にも,債権者代理権を行使することはできない(423条3項)。
なお、改正前の民法では、③の要件について、期限未到来の場合でも裁判上の代位をすることができるとしていたが、この制度は、改正法では廃止された。全然使われていなかったとのこと。
2 423条の2
これまでの判例では,まず,代位できる債権の範囲については,自己の債権の額を限度とするとされてきた(最判昭和44年6月25日)。例えば,100万円の債権があるだけなのに,債務者が有する200万円分の貸金返還債権を行使することはできない,ということである。このルールは,423条の2に明文化された。
3 423条の3
また,代位される債権が物の引渡し請求権の場合には,債権者は,目的物を自己に対して直接引き渡すよう請求することができる(最判昭和29年9月24日)。このルールは,423条の3に明文化された。同条は,さらに,第三債務者が債権者に対して物を引渡した場合,被代位債権は消滅するとしている。
4 423条の4
第三債務者が,債務者に対して抗弁を有していた場合,この抗弁は債権者に対しても対抗することができる(最判昭和33年6月14日)。これは,423条の4に明文化された。
5 423条の5、6
この条文は,従前の判例法理を変更したものであり,重要である。これまでは,債権者代位訴訟が提起されたことを債権者が債務者に対して通知した場合,債務者は,あたかもその権利が差し押さえられたのと同様に,その権利を第三債務者に対してはもはや行使することはできないとされていた(大判昭和14年5月16日)。
しかし,民事執行によって正式に差し押さえられたならともかく,被保全債権の立証さえまだ完了していない債権者代位訴訟を提起したことをもって,債務者の権利行使を禁止するのはやりすぎだと思われる。そこで,423条の5は,これまでの判例による解釈とは異なり,債権者代位訴訟の提起の通知によっては債務者の処分権限は制限されないとした。債権者は、債務者による財産処分を予防したい場合には、差押え等の処理を踏む必要があることになる。
そして、423条の6は、債権者代位訴訟を提起した場合には、訴訟告知が必要となる旨を定める。債務者に対する手続保障のためである。
6 423条の7
債権者代位権は、債務者の責任財産の保全のための制度であると言われる。典型的には、債務者が、債権を持っているにもかかわらずそれを適切に行使しない結果、債権者が、自らの債権を回収することができなくなるような事態を避けるための制度である。もっとも、いわゆる債権者代位権の「転用」という類型が、旧法の時代から議論されてきた。すなわち、金銭債権を保全するためではなく、特定の債権の実現を目的とするための債権者代位である。典型的には、A→B→Cと不動産が売却された場合に、まだ所有権登記がAの元に残っているとしよう。この場合、登記をCに移すためには、A→Bの移転登記、B→Cの移転登記を経る必要がある。しかし、この場合に、AとBが移転登記に協力しないと、そもそもA→Bの移転登記が出来なくなり、Cは自己に所有権登記を移転させることができない。そこで、Cは、Bに代位してAに対して所有権移転登記を求める債権者代位訴訟を提起することができる。この場合、Bは別に無資力である必要はなく、特段責任財産の保全が問題となっているわけではない。そこで、こうした債権者代位訴訟の使い方を、「転用」と読んでいるわけである。この債権者代位権の転用は、423条の解釈としても十分導き出すことができる解釈ではあるが、改正法は、423条の7として、登記請求権を保全するための代位について明文でこれを認めた。
てなもんで、改正条文を一つ一つ見てきたが、基本的にはこれまでの判例のルールの明確化であり、実務に大きな変化が生じることは、そんなにないのではないかなぁというのが、素朴な感想である。債務者の処分権限が制限されなくなったという点は、注意がひつようではあるが。